色覚について

健康診断の目的は何でしょう?

健康診断にはすべて目的が必要です。
「異常」の場合、何処がどのように異常で、現在、異常があることでどのような問題があり、その問題を回避するのにはどうしたらよいか? 将来どのような問題が起こり、それを避けるためにはどうしたらよいか?これらの事柄に全部答えられる人が、検査をする資格があります。

日本における色覚問題の本質

日本の社会全体、日本の医師、日本の眼科医の、日本国民の人権意識の欠落と色覚に関わる洗脳された認識不足にあると考えます。

学校健診の中の色覚検査対象の変更

文部科学省も、日本眼科医会も色覚検査の異常者への対応が判らなかったため、検査対象を適当に変えて行ったと思われます。
1918年(T7)(96年前)に徴兵検査用として男性を対象に作られた精度の高い検査表です。 男性には大変優れた検査であるが、これを女性に使っても良いかどうかの検討は今まで何処でもされてきませんでした。女性の社会進出がなかった時代の事です。

1958(S33)学校保健法制定色神検査毎年全員(11年間)
1969(S44)色覚検査小1、小3、小6、高1(4年間)
1973(S48)小1、4、中1、高1、高専1、4(5年間)
1978(S53)小1有無のみ、(17年間)
1995(H7)小4で1回のみ(8年間)
2002(H14)名古屋市教育委員会 定期健康診断から色覚検査を削除
2003(H15)学校保健法で定期健康診断から色覚検査を削除(11年間)
2014(H26)文科省からの通知で積極的に色覚検査の薦めと受け取られる通知

学校における色覚検査誰がするのでしょうか?

養護教諭制度が施行される前のことは判りませんが、多くは養護教諭が検査、場合によっては教員、場合によっては上級生、クラス委員だったとなどと聞いたことがあります。インフォームド・コンセントなど皆無で、当事者にとっては苦痛そのものであったと証言されています。

私の色覚に関わる研究の始まり

1973年(昭和48年)就任の折に学校の養護教諭から『色覚検査は男子は進学が出来なくなり、女子は結婚話がなくなり、保護者から泣きつかれるので、あの検査はしたくありません』と言われ、その時から入試要項の調査、就職制限の調査を始めました。

一般的な学校用石原式色覚異常検査表の使用

工業高校、理系大学、医学部、工学部、教育学部では『成績の如何に関わらず色覚異常者は不合格とする。』と入試要項に記載されていました。 制限大学の学長或いは入試担当教授に制限理由を尋ねたところ、検討しますとのことで、制限大学は毎年半減して行き、ほぼ5年間で3校を除くすべての大学で色覚は不問となりました。

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遺伝子の有無

問題は生物の教科書に出てきた、ショウジョウバエと色覚の伴性劣性遺伝形式の表記で、色彩識別能力の評価より、日本では遺伝子の有無のみが高く受け止められてきました。色覚異常者の色の見え方は世界で不明です。保因者の検出は難しいです。

色覚検査は異常者を選出のみで事後措置が皆無であった。身長・体重と同列の検査ではないことに文科省は気付きませんでした。 またインフォームド・コンセントが必要であることにも気付きませんでした。

石原表検査による実体験からの当事者の自信喪失・遺伝問題の訴え

「私は色弱です。これから娘が結婚するのですが、娘に打ち明けるべきでしょうか?」
「夫が色盲で上の娘が結婚したのですが、子供が生まれたところです。下の娘の結婚話は?」
「私は小学校の検診で色覚異常と判りました。母親は次の子を妊娠したのですが堕胎しました。」
「僕を色盲に産んだ母親を恨み、つらく当たってきました。」
「医師の家系に嫁いだのですが、長男が学校健診で色覚異常と判り離婚されました。」

色覚異常に関する憶測によるバリア

検査項目に色神・色覚があり、すべての学校、保健所、企業の保健室に備えられている色覚異常検査表で健康診断としてスクリーニングをして、「色覚異常の疑い者」を抽出する。診断ではないが、あたかも診断のように思いこまれてきました。

本来は程度・型別を見るパネルD15テストをするが、これをもっている医療機関は10%もありません。

さらに確実な診断はアノマロスコープによるが、平成8年の日本眼科医会の調査ではこの器械をもっている眼科医療機関は0.1%でした。 そういう中で診断名は色盲・色弱・色覚異常=先天色覚異常となり、根拠のないまま色盲は運転免許が取れない、医師になれない、薬剤師になると危険だ、色を扱う職業は無理だ、学校の教員には向かないなどなど誤った社会的通念があったのです。

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警察官および自衛官採用に際しては石原式色覚異常検査表はやめたが、職務遂行に支障がないこととして、職務遂行の基準をパネルD15テストに置き換えることにしたので、警察官、自衛官受験者で1次2次まで通っても、眼科医でパネルD15テストをして診断書を持参するようにと言い渡されるが、何処の医療機関がパネルD15テストをもっているかどうか判らないので、これは非常に不親切なやり方で、当事者たちは困っています。

色覚異常の疑いと言われても正式な診断をしてくれる眼科医が何処にあるかわかりません。診断をしても治るわけではないし、どんなことに注意したらよいかも知らされません。

石原表の問題点

・色彩識別能力はこれでは判りません。
・男子には誤診率は少ないが、女子には誤診率は7~8割にのぼります。 石原表の女性に対する誤診率については昭和59年1981年に日本の眼科第55巻第5号の447-454に掲載されています。 男性は進学・就職が難しくなり、女性は結婚が難しくなるので、誤診がこのように多い検査は公衆衛生学的に学校健診でしてはならないものであるのと同時に、個人的に必要と思えば、眼科専門医を受診して、検査を受け、十分な説明を聞いて納得してくるのが良いと考えます。

一般健康診断に含まれる色覚検査の見直し

色覚検査の見直しとして以下のように3法が改正されました。

文部省は平成7年(1995)学校保健法の一部改正により学習上配慮を必要とする児童を選び、適切な事後措置をすることとし、配慮を必要としない児童は異常とはしないと定めました。
厚生労働省は平成13年(2001)労働安全衛生法を改正し、雇入時の色覚検査を廃止しました。
文部省は平成15年(2003)学校保健法を改正し、定期健康診断から色覚検査を削除しました。
国土交通省は平成16年(2004)船舶職員法を改正して、眼科的色覚検査廃止し、灯色識別テストでスクリーニングを行い、フェイルする者には新しく創設された三色識別テストに合格すれば昼間限定免許を受験できることとしました。

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配慮を必要とする児童生徒の色の見え方のテスト

1995年の学校保健法の改正に合わせ、CMTカラーメイトテスト(色のなかまテスト)を筑波大学色彩心理学金子隆芳名誉教授と共同開発しましたた。 色覚検査がなくなってもある色が組み合わさった時見分けにくい人は男性の2.2%いるどの色の組み合わせが苦手かを検査するものです。

検査で良い・悪いを識別するのが目的ではなく救済策を考える道具として開発し、人間工学会ではユニバーサル・デザインとして多様化の中で如何に救済するかの実践であると高く評価されています。

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地図などで判りにくい色があったら、色以外の手がかりとして斜線など付け加えるとよいでしょう。

クラスに色覚特性者がいるか否かを知る必要はない

色覚特性を選別して対応するのではなく、常に誰にでも見やすいように、黒板には赤チョークは使わず、白か黄色を使って下さい。そちらの方が見えやすいのです。相談されたらCMC(旧CMT)カラーメイトチャートで検査を。事後措置色覚特性者は明度識別が優れているのです。

養護教諭が使う検査表について

・養護教諭は色覚検査をする必要はありません。文科省も健康診断の中で色覚検査をするようにとは言っていないからです。希望があったらと云う意味は、色識別に困難を感じる子あるいは親がそれを感じている子に望まれたら検査をすれば良いのです。
・それについても知りたいことはどのような色が見分けにくいのかを知りたいので、先天異常があるかどうかを知りたいのではありません。
・それにはCMCカラーメイトチャート(CMTカラーメイトテスト)が最も良いと考えます。これは医師が使うものではなく、教職員が色の困難さを知るために使うものです。
・遺伝子検査と同等の仮性同色表(石原表も標準色覚検査表も同じ)は使ってはいけません。養護教諭としては責任が持てないからです。色覚検査表は医師が使う検査表です。

文部科学省から養護教諭への指示は出ていない。医師が相談を受ける。

・仮性同色表によってはどのような色が見分けにくいのかは全く分からないので、色覚特性が学習障害となると云う意味での検査としては意味がないのです。
・従来の色覚検査によっては職業適性は判らないので、進学・就職を見据えての色覚検査は意味がありません。職業適性のための色覚検査法は世界にまだ存在しません。
・どのような障害があっても優れたところを伸ばして、将来社会貢献できる人間を育てることが教育であると考えます。

健康診断票への記載カラーメイトテストの結果

・視覚障害・聴覚障害・身体障害・学習障害・色覚特性等隠したのでは良い教育環境は整えることは出来ません。
・必ず健康診断票に記載し、どのように配慮してきたかも出来たら記録して次に渡すことが大切です。
・特に特別支援教育制度がなくなり、認定就学者制度もなくなり、統合教育に近づいた今日、個々の児童生徒の特性は記載してなければ支援の仕方がわかりません。個人情報といっても真の教育には必要なので、結果を教職員間で共通認識として周知している方がよりよい教育が出来ると考えます。

色覚特性についての知らせ方

・カラーメイトチャートは学校で使われている100色の中から色覚特性をもつ児童生徒の見分けにくい色の特徴的なものを選んであるから、フェイルしたチャートをカラーコピーして知らせるのが良いです。
・眼科医により色覚異常と診断されている児童生徒の色の見え方も多分判らないと思われるので、CMCで試してみるのがよい。全部できたら、学校で困る色はないと解釈してよいと考えます。 フェイルのチャートがあれば、その組み合わせに配慮するようにしてみましょう。

就職拒否の学校・企業について

・入学試験で色覚検査をする場合はないし、入学拒否をしている学校はありません。
・企業も基本的には労働安全衛生法に「雇入時の色覚検査廃止」になっているので、就職拒否をすることはありません。
・企業ではなく企業の中の職種での制限はある。というより語学の不得意な人が語学を必要とする仕事には就けないように、微妙な色識別を必要とする職種には就けないことは当然です。
・色覚特性であることを認識して、無理のない職場を選ぶのが良いと思います。色の選択で困った時はキーパースンを作っておいて、意見を聞けるようにしておくのもひとつです。
・色覚検査で正常でもパイロットに合格するのは非常に困難です。
・どのような能力が出てくるかは判らないので、学校ではあらゆる場面に挑戦して、最終的には自己責任で、自分にあった職場を選ぶのが良いでしょう。

色覚異常者へのフォロー

・養護教諭としては、CMCで分かった苦手な色の組み合わせのある教科書には色以外の手がかりをつけて見やすくするよう指導しましょう。
・何か困った事があったら何時でも知らせてね!とつながっていることを表明しておいてください。
・家族は遺伝のことを引きずらずに良いところを伸ばすように元気づけて前に進んでもらいましょう。
・医療機関としては女子の検査には特に慎重に、アノマロスコープでも難しいことがあるので、適当な診断を下さないで、色覚専門外来に紹介するのが好ましいでしょう。