高柳泰世よりメッセージ

学校での色覚検査で、初めて「異常」といわれ、ショックを受ける児童生徒や保護者が少なからずあります。その驚きの大きさは、健常者の想像を絶するもので、そのことをひた隠しにしようとする風習が長い間続いています。進学、就職、結婚という、これからの人生に暗い影が投げかけられたからです。学校での色覚検査は、児童生徒の異常を見つけ出すためだけのものではないのですが、結果として世の中がそうしたのです。しかし、それは全く理不尽なことです。色覚「異常」に対する多くの誤解や偏見からそれが生まれ、長年にわたって積み重ねられたためです。

こうした悪い思いこみを正すためには、学校保健関係者の色覚に対する正しい知識と、色覚特性の児童生徒への温かい思いやりが必要です。

色覚特性は、「異常」というよりはある種の色の組み合わせの区別がしにくい特殊な状態、つまり個性ともいうべきもので、日常生活や仕事の上で不便は少ないものです。

最後に、色覚特性を持っていて、著名な視覚生理学者(医師)である慶應義塾大学名誉教授・村上元彦先生のお言葉を、先生の御著書「どうしてものが見えるのか」(岩波新書)から引用して結びとします。

「私は色党異常です。この言葉は私にとっては目の敵です。目の敵とは色を感じる錐体物質の遺伝子の異常ではなく、世間の人々の無知と独断に基づく差別です。思えばこの敵とは長いつきあいです。子どもの頃に味わわされた劣等感、また色々な学校の入学試験で苦しめられました。私の場合に困惑したのは、開業医の父の後継ぎをするため、何としても医学部に潜り込まねばならなかったからです。一次の学科試験が通っても、二次の身体検査の色覚検査に引っかかると落第でしたから、私は石原式色盲票を丸暗記して入学試験を潜り抜けました。いざ入学してみると、私の色覚異常は医学の学習に何の支障にもなりませんでした。最近の分子遺伝学の進歩は急速で、色覚に関する遺伝子のことも相当わかってきました。遺伝子の方から逆に眺めると何が正常で何が異常かは明確な線引きをすることは不可能であると私は考えます。

学校保健の中の色覚検査は、『イジメ』の種を学校がまいているようなものでした。人間がもつ多種多様な能力の中の、たった一つの多少不自由なだけのことです。

社会の人権意識の高まりと、色覚異常の差別撤廃を叫ぶ人々の努力によって、色々な規制は急速に緩和されつつあります。母親として一番大切なことは、色覚の問題を含めて、これからの人生で遭遇するであろう様々な困難や障害を跳ね返す強い意志と、これらを克服するのに十分な能力を持った子供に育てることです。そのためには、父親を含めて家族は、保因者である母親の立場を正しく理解して、温かい家庭環境を保つことが大切なことだと考えます。」

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