色覚Q&A

はじめに

学校では視力検査と同じように色覚検査が行われています。そして、検査表を間違えて読む子が「色覚異常」「色盲」「色弱」で運転免許が取れない、理系には行けない、教師になれないと思つている人がいます。

しかし実際には色覚異常でも運転免許は取れますし、医師にも薬剤師にも、教師にもなれます。

平成7年の学校保健法の一部改正で、学校では生まれつきの色覚を検査するのではなく、学校生活で不便のある子を選び、その場合適切な事後措置をすることになりました。

色覚に関する正しい常識を身につけ、子どもたちの持つて生まれた個性を生かして、学校生活を楽しく過ごせるよう指導していただきたいと思います。

Q1 色覚異常は生まれつきのものですか?
A1 従来、学校で扱う色覚異常とは、生まれつき(先天性)のものです。先天性色覚異常は医師により診断されるものです。

解説1

一般に色覚異常といわれるものは、先天性のものです。これは医師が何種類かの検査機器を使って診断します。先天性の他に、後天性という生後の病気のために網膜(目の奥にあるフィルム)や、その他の神経部分の働きが低下したり、あるいはなくなって、色の感覚が変わるものもありますが、これはごく僅かです。

Q2 先天性色覚異常には、どんな種類があるのですか?
A2 眼科学的診断による色覚異常には三つの種類(第1異常・第2異常・第3異常)がありますが、日常生活では大きな特徴はありません。

解説2

人間の色覚は、三つの色を感じる働きがもとになります。それは赤、緑、青ですが、そのうちどの色の働きが低下しているかによって、学問上は次のように分類されてい ます。

・第1異常…赤の感度が低下
・第2異常…緑の感度が低下
・第3異常…青の感度が低下
このうち多いのは第2異常で、第1異常は比較的少なく、第3異常は極めて稀です。それぞれの場合に、どの色がどのように見えるかは一概にいえませんが、色どうしの見分けにくさについては、ある程度の規則性があり、「CMT」(後で述べるCMT学校教育用色覚検査表)はそれを利用しています。

Q3 色覚異常の頻度はどのくらいですか?
A3 異常の頻度はよく2%といわれますが、それは男女合わせたものです。男性と女性では大きく違います。男性の頻度は4.5%で、女性では0.2%であり、20倍の差があります。

解説3

日本における色覚異常の出現率は、男性では約4.5%、女性では約0.2%とジャーナリズムなどでいわれます。色覚異常の遺伝に関しては男性と女性では大きく異なります。約20倍の差があります。ただし女性の場合は10人に1人の割合に保因者がおります。詳しくは次項を参照してください。

Q4 色覚異常は遺伝しますか?
A4 色覚異常は典型的な伴性劣性遺伝で、優性と違つて因子が二つないと現れないもので、母から子へと受け継がれます。

解説4

Q3で述べたように色覚異常は、日本では男性で4.5%、女性で0.2%に見られます。性別と一定関係を持つ伴性劣性遺伝によるもので、母親がその主役となります。また、女性の10人に1人が遺伝因子を持ち(保因者)ますが、色覚は正常です。

色覚異常の遺伝は、性を決めるX染色体にある遺伝子によってなされます。女性にはX染色体は二つで、男性は一つです。X染色体には色覚以外の遺伝子もたくさんあります。色覚の遺伝の形式が伴性劣性ですので、女性ではX染色体の一つが異常でも異常として表面に出ませんので、色覚は正常です。しかし、遺伝子を内蔵します。こうした女性を保因者といい、子どもへ遺伝子を受け渡す可能性を持っています。

女性の異常者は0.2%、1000人に2人ですが、保因者は実に10人に1人です。女性にとって他人事ではありません。この事が、色覚異常は母親のせいだといわれる大きな原因です。これに対し、男性のX染色体は一つですので、色覚異常の遺伝子があると、色覚異常が生じます。

遺伝子の検査をするためにはインフォームド・コンセントが必要です。何のために検査をするのかを十分説明して、被検者が承知の上で検査しなければなりません。事後措置もさらに大切で、情報が漏れないように細心の注意が必要です。こう考えてくると色覚の検査には十分な配慮が肝要です。

Q5 最近、色覚特性という言葉を聞きますが、色覚異常とどう違うのですか?
A5 従来、石原式色覚異常検査表を誤読した者を色覚異常と呼んでいました。しかし、平成7年度の学校保健法施行規則の改正に伴い、教育を進めていく上で色彩に関わる配慮を必要とする場合を「色覚特性」と呼ぶようにしました。

解説5

従来、学校保健法では生まれつき(先天性)の色覚異常を調べてきました。しかし平成7年度からは先天性色覚異常を調べるのではなく、学校教育上配慮を必要とする児童の有無を知り、適切な事後措置をすることになりました。

学校用石原式色覚異常検査表を誤読する児童でも、教育上配慮を必要とする児童はそんなに多くありませんが、中には、学校の中で一般に使われる色の組み合わせで、特に茶系と緑系、ピンク系と青系、紫系と青系などの色が見分けにくい場合があります。それを「色覚特性」と呼びます。

その見分けにくい色を調べるのに、後で説明するCMT学校教育用色覚検査表を使います。

Q6 色覚特性だと、色がどのように見えるのですか?
A6 色覚異常者の詳細な色の見え方は、まだ世界で分かっていません。「CMT」は学校で使われている100色の中から色覚特性者が見分けにくいだろうと云う色の組み合わせを教えてくれます。

解説6

-般的には色盲・色弱を含めて色覚異常と呼んでいます。

色盲という漢字から、色盲は「色の盲=色が見えない」と思いこみやすいのですが、色盲と判断された人は色が分からないのではありません。また、色弱というと、色の感覚が弱いと受け取られやすく、色盲よりも程度が軽いように考えられがちですが、これはいずれにしても漢字の持つ意味からくる誤解です。

学問的には色盲・色弱はアノマロスコープという精密な器械によって診断しますが、この器械では程度は分かりません。要するに色覚異常は複雑なのです。色盲・色弱という学術用語がいつのまにか、一般的な用語になってしまったことによる大きな間違いです。

それを是正するためにも、名古屋市の学校保健では色覚異常・色盲。色弱ということばを止めて、『色覚特性』と呼び慣わすようにしています。

Q7 学校で行う色覚検査の目的は何ですか?
A7 学校で行う色覚検査は、学校生活に支障があるかどうか知ることで、色覚異常を見つけ出すためのものではありません。

解説7

平成7年度の学校保健法施行規則の改正に当たり、日本学校保健会が「児童生徒の健康診断マニュアル」という手引き書を作成しました。

この中で「学校で行う健康診断は、病院、診療所で行う健康診断や病気の診断とは違い、問題のある状態を、児童生徒や保護者に不安を与えないように検査するJ、そして「基本的には児童生徒が学習する上で差し支えがあるか、あるいは、色彩に関係して学習に配慮が必要かどうかを知るためのもので、色覚異常を検出することだけが目的ではない」といっています。

つまり、学校保健では、病気として追求しないで、色覚異常者が学習に差し支えないように配慮するために、検査をするといっているのです。

Q8 色覚特性を持つ児童生徒は、学校生活でどのような支障があるのでしようか?
A8 色覚特性があると判定された児童生徒は、色の組み合わせの見え方が個々に違いますので、その点きめ細かい対応が必要です。

解説8

児童生徒の周りの人も、学校での色覚検査で初めて異常であると知る人がたくさんいます。特に一般的に使われている従来の石原式検査表(丸いつぶつぶの字が隠し絵のようになっている検査表)の検査ではそうでした。先天性の異常の場合はそうしたものと考えられていますが、検査をするまでは、それらの色覚異常者の多くが、本人も周囲の人も何も気づかずに生活してきたことも事実です。

教職員、眼科医の中には、異常のあることを早く本人に自覚させ、将来の生活に備えさせるのが良いという意見もありますが、公衆衛生の分野では、治療の方法のない異常を集団検診で取り上げるのは、異常者を苦しめるだけで良くないものともいわれています。また、社会的には、社会生活に取り立てて不便のない異常を、ことさら取り上げることよりも、そうした異常があるという事をふまえて異常者が安心して生活できる環境づくりをする方が大切だといわれています。

ユネスコの世界宣言で“遺伝病を軽々しく取り上げてはならない”ともあり、学校保健では社会的な考え方を重視して“学校生活に支障のない異常は、異常とみなさない。”としています。

Q9 名古屋市の学校では、色覚検査はどのように行われているのですか?
A9 平成7年度の学校保健施行規則の改正に辺り、小学校4年生だけが対象となりました。名古屋市では、石原式検査表でスクリーニングをし、その後、「CMT」を使用して適切な事後措置を行つています。将来は「CMT」を重視しようと考えています。

解説9

1)「CMT」による検査
現在、名古屋市で使用している「CMT」は、色覚異常があるかどうかを調べる検査表ではなく、色覚特性を持つ児童一人ひとりが、どんな色の組み合わせが区別しにくいかを知り、生活での配慮をどのようにしたらよいかを明らかにするためのものです。

色覚異常者が、どのような色の組み合わせが分かりにくいかは、だいたい分かっていますが、実際に使われている色で示したものはありません。

「CMT」は、現在ある教科書の中に使われている色を使い、どんな色の組み合わせが区別しにくいかを分かるようにした検査表です。実際使われている色での検査ということに意味があるわけです。それによって色覚特性を持つ者の周囲にいる人が、色使いに気をつけることができます。

2)事後措置
「CMT」により区別しにくい色の組み合わせが分かるので、その色のコピーを担任や保護者に渡して、理解をいただいています。また、「色覚に関する説明会」を該当児童とその保護者を対象に行い、知識を深めていただいています。

Q10 石原式検査表は、どのように使えばいいのですか?
A10 一般に使われる石原表は、遺伝子検査と同等の結果が出るので、学校で養護教諭の使うものではありません。学校医が使うものです。精度の高い検査表であるため、学習に差し支えない人まで異常としてしまいます。「不安を与えないように検査をする」という文部省の方針に沿わないと考え、補助的に使用すべきでしよう。

解説10

現在、学校でも職場でも色覚検査に最も多く使われているのは石原式色覚異常検査表です。これは世界的にも権威のある医学的な検査表です。日本には、この他にも優れた検査表がありますが、そのいずれでも、社会生活にどの程度支障があるかを調べることはできません。 実社会は検査表に使用されている理論的な色の組み合わせのように単純ではありませんし、そのうえ、色以外の色々な要素が複雑に関係しているからです。

現在、世界中のどこにも、職業適性を調べる検査表はありません。したがって、検査表による検査だけで、学校生活に支障があるかどうかは分かりません。

なお、石原式検査表は女性の場合、しばしば正常者を異常とする傾向があって問題です。もし低学年で色誤認が著しい児童については、色覚特性を頭において指導することが必要です。

Q11 色覚特性を持つ者の進学・就職はどうなのでしょうか?
A11 進学についてはほとんどの高校・大学で問題なく入学できます。就職についても制限は少なくなり、就業できる分野も広がっています。

解説11

以前は理科系の学科の進学は制限されていましたが、現在では防衛大学、商船大学など2、3の大学のみが受験を拒否しているだけです。理科系はいうまでもなく、一時は、文化系まで職業制限がありましたが、現在では医師、薬剤師などの医療職、教員をはじめ、一般の職業でも次第に制限がなくなりつつあります。

運転免許も、実際に信号灯の色が正しく認識できれば取ることができます。多くの人々の努力で、仕事の上で実際に支障がなければ就業できる職域が拡大しています。

将来、就職や資格取得などのときに、また問題になることもあるでしょうが、今からきめてかからず、幅広い興味と実力を身につけるように指導してください。

Q12 色覚特性を持つ者が、過ごしやすい社会にするには、どうしたらいいのでしょうか?
A12 色覚特性は障害ではないので、「異常」という言葉を変えることと環境づくりが必要です。みんなそれぞれの色覚の世界を持っていることを尊重しましょう。

解説12

「色盲とは色が見えない」という間違った知識が広まり、色覚異常者を障害者のように考える人がいまだにいます。

色覚異常者には色の弁別力が部分的に多少弱い人がいますが、多くは、社会生活上特に問題はありません。したがって、障害とか異常という言葉は適切ではなく、かえって誤解を生んできました。

そこで名古屋市の学校保健では色覚特性と呼ぶことにしました。しかし、特性というと、特別な能力という意味もありますので、もっと良い言葉はないかと検討もなされています。

視覚障害者に対する歩道の点字ブロックをはじめ、社会の目は温かく変わっています。教科書の色使いも一昔前と違って、色覚特性を持つ児童にも見やすいものに変わりました。信号灯も色だけの指示ではなく、外国のように形を取り入れることが望まれています。すべての人に違和感のない環境づくりが必要です。

Q13 教師として、色覚特性を持つ子どもに、どのように接すれば良いのでしようか?
A13 色覚特性を正しく理解してください。そのことが子どもを明るくし、その積み重ねが将来、社会をもつと明るくします。

解説13

有名な画家であるゴッホが、色覚異常であったことはよく知られています。ある都市での絵画展で、優秀作の中の多くが色覚特性を持つ子どもたちのものであったという事実もあります。しかし、正常者にとっては全く考えられない色使いをする子どももいます。この場合、色覚特性という個性でもあるという認識さえあれば、叱ることはないでしょう。幼い子どもたちの指導は大変でしょうが、こうした広い知識による温かい思いやりが子どもたちを明るくします。

日本ほど、色覚特性であることを隠す社会は稀です。子ども自身が特性を感じている場合は別として、支障のない子どもたちを周囲が異常、異常と取り立てることは、子どもの心を深く傷つけます。子どもたちを明るく育てることが将来の社会を明るくします。小学校1年生で色覚検査をしない最も大きな理由です。教師の温かい配慮を心からお願いしたいと思います。